情熱ものづくりインタビュー
株式会社ノボル電機

音響一筋でやってきた私たちだからできることがある

お客様の声に耳を傾けてきた75年 蓄積されたノウハウを生かしていきたい 株式会社ノボル電気 代表取締役社長 猪奥 元基

第13回のインタビューでは株式会社ノボル電機、代表取締役の猪奥元基社長にご登場いただきます。

株式会社ノボル電機は、令和2年10月に創業75周年を迎えた老舗企業です。スピーカーやアンプ、マイクといった拡声音響装置と船舶の汽笛を製造しており、特に船舶に搭載のホーンスピーカーは、高いシェアを誇ります。また、日本で初めての防水メガホンを生み出すなど、厳しい現場で活躍できる業務用拡声音響装置を作ってきました。

あたりまえのようにある拡声音響装置の役割を振り返りながらノボル電機が追求、開発してきた製品について、また、これまでの会社の歩みや現状、今後の展開を猪奥社長に伺いました。

拡声音響の世界で、ニーズをキャッチし続けてきた75年

――――拡声音響装置とは、具体的に何を指すのでしょうか。

簡単にいえばアンプ、スピーカー、マイクです。ノボル電機は拡声音響装置を専門に製造するメーカーで、「メガホンを作っている会社」といえばわかりやすいでしょうか。

国内には3社の拡声音響装置専門メーカーがあります。神戸のTOAと、同じ枚方にある日本電音、そしてノボル電機です。関西に集約されていますが、実は国産メガホンのほとんどがここ、枚方で作られているんですよ。TOAのメガホンはほぼ東南アジアで作られているそうですし、国内工場で生産するホーンスピーカーやメガホンはほぼ枚方産です。

他の2社に比べて規模が小さい弊社は、彼らがカバーできない部分に力を注いできました。それは何か。お客さまと接する営業担当者やお客さま相談室に寄せられる声を丁寧に伺うこと。そして製品に反映すること。これを繰り返してきたのです。

――――お客さまの声を反映した製品には、どのようなものがありますか。

480グラムの「かる~いホン」

480グラムの「かる~いホン」

小さくて軽いメガホン『かる~いホン』です。「従来品より30パーセント軽く」をコンセプトに開発しました。まず樹脂量を減らし使用乾電池を6本から4本に、アナログアンプからデジタルアンプにと徹底的に小型軽量化、省電力化しました。

さらに音が出るホーン部分は、音を遠くに飛ばすのに理想的なラッパの形から、使い勝手の良いスマートな直線型に改良したのですが、そのために満足な音が出なくなってしまいました。メガホンでは致命的です。そこで、自社の3Dプリンターでいくつも試作し、1台1台に粘土を薄くはりながら厚みを微調整し音を出してみる、これを繰り返しました。ラッパの形以外で音がどう飛ぶかについてのマニュアルは、どこにもありません。音が前方にうまく飛ぶよう試行錯誤を重ね、ハウリングのしにくい納得できる音が出せるようになりました。

完成したメガホンは、重さが500ミリリットルペットボトルよりも軽い480グラム。不要な時は腰から下げて携帯できるよう、専用のウエストホルダーも作りました。そうすればどこかへ置きっぱなしにしたり、紛失したりなどの心配もありません。扱いやすい上に耐水性、耐塵性、耐衝撃性と、悪環境での作業にも強い製品です。そのため、一般的な使用以外にも消防や警備関係の現場で好評を頂いています。

北大阪商工会議所主催の環境改善表彰優秀賞や、日刊工業新聞・りそな中小企業財団主催の中小企業優秀新技術・新製品賞で優良賞を受賞しています。

――――スマートフォンが搭載されたメガホンがありますね。

多言語放送装置『外国語しゃべ~るホン』

多言語放送装置『外国語しゃべ~るホン』

多言語放送装置『外国語しゃべ~るホン』は、日英中韓の4か国語で非常時の防災放送や平常時の案内放送が可能です。スマートフォンは通信機能をなくし、ディスプレイ兼CPU専用として標準搭載しました。流れるのはメッセージ放送なので、人が喋らなくても自動的に音声を出せます。音声内容はあらゆるシチュエーションに対応可能で、地震や台風、交通事故など36分野、484用語を内蔵しています。たとえば地震が発生した時は、「地震です、地震です、大きな揺れに備えてください」という声が、4か国語でメガホンから流れる仕組みです。

現在のコロナ禍では録音機能を使って感染予防対策の日本語メッセージのみを繰り返し放送できますし、来年のオリンピック・パラリンピックはもちろん2025年の大阪万博でも活用できます。

他にも、さまざまな尖った製品を作っています。低くてこもりがちな声も聞き取りやすくなるボイスチェンジャー機能付きメガホンは、ボタン1つで周波数を3段階に変調できる優れもの。

また、エンジン音が大きく響く漁船の上で、快適にスマートフォンでの通話ができる「受話器付き拡声アンプ」も好評です。手袋を付けたまま操作したり、水濡れや、落下の危険があったりと過酷な船上でも扱えます。

さらに蓄光体を樹脂に練り込んだメガホンもありますが、これは暗いところでほんのりと発光するので、夜間作業を伴う現場からのニーズは高いですね。

徹底的な見える化で効率よく、大切なのは人材育成

――――社屋の2階が工場ですね。

ここでは常時30名ほどが、各持ち場で作業を行います。基本的に2人ペアを組み、ホーンスピーカーを組み立てています。

省エネ効率を考えて、工場内は窓を少なくし、天井を低めに設計しました。天井には防音のための吸音材を貼っています。小ロットでの生産が多い弊社では一カ月に約300品種を製造しています。

特徴は、セル生産方式です。以前はバッチ生産方式で何本ものラインを組んでいましたが、新工場ではセル生産方式を採用しました。おかげで弊社の強みである、多品種少量生産をさらに強化できました。80台あるセル台で、生産ラインの編成を自在に変えられるのもメリットです。あらかじめ、「ホーンスピーカーの生産はあのエリア、アンプの組み立てはこちらのエリア」と大まかなエリア分けを行っているので、ライン編成の切り替えもスムーズ。その結果、以前と比べて生産力が20%もアップしています。

――――セル生産方式に変更するだけで、そこまで効率化が期待できるのですね。

ただ、セル生産方式は個人の能力に依るところが大きいので、そのための人材育成に注力しています。高い技術を身につけてもらうためには、長く働いてもらわなければなりません。そこで、昨年より、全従業員の直接雇用を実現しました。特にこれからの日本のものづくりは、若い世代にしっかり担ってもらわなくてはなりませんので、若い方を積極的に登用しました。また、しっかり技術を身につけてもらうために、社内の壁には、誰がどのような資格を持っているかが一目でわかる表を掲示しています。

このような現場では、あらゆるものの可視化が重要だと考えています。工場内の床にできるだけ物を置かないのも、落下した部品を即座に発見しやすくするためです。一般的にいう「見える化」ですが、できるだけヒューマンエラーをなくし高品質な製品を作り続けるためには、見える化に徹底的に取り組むことが重要と考えます。

――――工程などで工夫されていることはありますか。

反射をなくし音の微細なテストを実施する「無響室」

生産計画は月単位で確定していくのが通常だと思いますが、弊社は2週間前の確定です。ずいぶんギリギリだと思われるでしょうが、ノボル電機の特徴はお客さまの声を製品に反映させることです。社外の意見や要望を持ち帰る営業担当者や、お客さま相談室に寄せられる声を取り入れるために、直近まで待つのです。そのため、材料は多めにストックしています。代わりに生産在庫を抑えるという具合にバランスをとっています。

将来を見据え、自社の強みを生かせる分野へ

――――お客さまの声を製品に生かしてきたことがよくわかります。あらためて会社について教えてください。

(左)山岸製造部長 (右)猪奥社長

ノボル電機は戦後間もない1945年、私の祖父が大阪府東成区で創業しました。その辺りは当時工業地帯で、一枚板を棒でグッと押すように伸ばしてホーンの形にする「アルミのへら絞り」の技術を持つ腕の良い職人も大勢いたようです。また、トランスの部品が手に入りやすかったために、拡声音響製品を作り始めたと聞いています。

その後は事業の発展に伴って交野市倉治に工場を建設、さらに生産性向上と父からの事業承継を機に、2018年に現在の枚方市茄子作南町に本社と工場を移転させました。以前は3カ所に散らばっていましたが、現在は工場機能と、本社機能を一元化しています。

実は、日本初の防水メガホンを作ったのはノボル電機です。音で安心、安全を守ってきたという自負があります。

創業当時から音響装置というさほど大きくない市場規模で、専門性の高い業界だったがゆえにこれまで生き残ってこられたと思っています。ただ、拡声音響の市場規模は300億円程度ですし、限られた市場で大手企業と競い合っても限界があります。

そこで将来へ向けて、これまでのBtoBに加えてBtoCへの可能性も模索しています。

――――攻めの姿勢ですね。具体的に何をされていますか。

(左)山岸製造部長 (右)猪奥社長

大阪産業局が実施している「大阪商品計画」という事業に応募し、本年度採択していただきました。ホームオーディオです。採択後はアドバイザーの方の支援と指導を受けながら、2月に東京で開催される東京インターナショナルギフトショー出展に向け、さらに製品に磨きをかけています。将来は事業化を視野に、鋭意取り組んでいるところです。

これまで企業を相手にしてきたので、社内の会議でも一般の方々に売れる商品かどうかの判断は難しいものです。かといって、会社の資金を投じて開発するわけですから社長の私が無理やり「やろう!」と押し通すわけにもいきません。ならば社外に応募し、第三者に事業として成り立つか判断を仰ごうと思ったのがきっかけです。公平、公正にジャッジいただけると応募し、その結果採択に至ったわけです。

このほか、積極的に取り組んでいるのは受託生産です。最近の人手不足や少子高齢化、事業承継ができず廃業する下請け業者の増加によって、弊社に生産委託の打診をしてこられる件数が増えているのです。

幸い長年、多品種小ロットでの自社製品組み立てをやってきて、その間培ってきた生産技術力や品質管理のノウハウを持っています。そこに注目いただいているわけです。

以前から取引のあった顧客企業さまと同様に、新規企業さまに対しても親身になってお受けさせていただきます。それによって、私たちも技術力を高めることができる考えています。

――――みなさん、かなりお忙しいように見受けられますが、福利厚生制度について教えてください。

昨年度の有給取得率は80%。さらに時間単位の年次有給休暇制度を導入しています。また連休の大型化や看護休暇、介護休暇の有給扱いや時短勤務など、個人の事情やライフスタイルに合わせた制度を整えています。

その他にもがん検診の補助、インフルエンザ予防接種の補助および集団接種など健康維持にも力を入れています。

――――充実されていますね。最近の新型コロナの影響はいかがでしたか。

新規の商談が止まったことが一番大きかったでしょうか。でもおかげで、歴史の長い会社にありがちな企業風土といったものの見直しに着手できました。
リモート業務のできない職場ですから感染予防を徹底して、おかげさまでこれまで感染者を出すことなく稼働を続けられています。

「アホなことに真剣に取り組む製造メーカーがあってもいい」

――――今後の展開について教えてください。

創業から75年もの間、基本の戦略を守り続けてきました。今ではノボル電機の製品はあらゆるところにあります。事務所の呼び出し放送や電子オルゴール搭載のパッカー車、クレーン車などの建設機械の拡声器はほぼ弊社の製品です。また、自治体の広報車の放送装置やメガホンなど、身近なところで活躍しています。市場規模は小さいですし製造数量も少ないかもしれませんが、消防や警備など命にかかわる現場で重宝されています。「絶対に無くさないで欲しい」というお声は、私にとって誇りです。

今までも、そしてこれからも、先代から引き継いだ経営理念「安心される専門メーカー」の具現化が、戦略の軸です。具体的には、かゆいところに手が届く性能と、特定の市場に特化した仕様の実現です。今後もその戦略の軸をぶらさずに続けていくとともに、拡声音響の枠にとらわれることなく、周辺分野を開拓して独自路線での発展を目指していきます。防災の分野でもさらに貢献していきたいですね。

「音」に関することであれば何でもします。関西の企業だからというわけではありませんが、遠方まで届くよう男性でも高音ボイスに変調するメガホンや、限界まで軽くするために本当に必要な物だけを厳選したメガホンなど、一社くらい「アホなことに真剣に取り組む製造メーカー」があっても良いのではないでしょうか。お客さまのニーズがあれば、私たちはどのようなことにもしなやかにチャレンジしていきます。

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