情熱ものづくりインタビュー
木谷電器株式会社

「端子」を発端に新しい視点を追求する電気部品メーカー

従来の概念にとらわれず、作り手である私たちから情報発信していきたい 木谷電器株式会社 代表取締役社長 木谷 健一郎

第9回のインタビューでは、電気部品メーカー『木谷電器株式会社』の代表取締役・木谷健一郎さんにご登場いただきます。

前身は1918年発足の木谷製作所。その後、1963年に木谷電器株式会社が設立されました。主力製品である端子は、約200種類も製造しており、国内で高いシェアを誇ります。2013年に創立50周年を迎え、以降「リ スタート」のスローガンを掲げて新機軸を模索する木谷社長に、ものづくりへの想いや次の50年への展望を伺いました。

「端子」を発端に、幅広い技術を提供。

――――主力製品の端子とは、家電製品などで使う電源コードの端子ですね。約200種類も製造されているとは驚きです。

はい。どなたも一度は目にしたことがある端子が、木谷電器の原点です。ご希望のスペックに合わせて自社で設計し、サンプル作りも製造も自社で行っています。大体、規格が決まっていて標準品だと10種類程度なのですが、各メーカーさんの仕様によっていろいろな端子があるので、カスタマイズされたものを含めると約200種類になりますね。

最初は端子製造だけだったのですが、やがて高度成長期に伴ってお客様から「大量生産・安定した品質」を求められるようになり、「自動機」も製造するようになりました。これは端子と電源コードを自動的に接続する機械です。電線の皮むきから、芯線と端子の圧着、成形、指定の長さへの仕上げ、さらに電気試験まで。一連の工程を自動でできる機械を造って最適なソリューションを提供し、その機械に合う端子を一緒に販売することで、木谷電器の端子は国内シェア6~7割を占めるようになりました。

ただし現在は、多くのお客様が海外に拠点を移されましたし、家電分野は中国・台湾・韓国などの海外メーカーの振興で生産数が減ってきているため、3割前後になっているのではないかと思います。「自動機」もトータルで200台ほど製造しましたが、やはり同様の影響があり、現在はほとんど製造していません。

でも自動機製造のノウハウがあるため、様々な工程の自動化や省力化といったご依頼をいただくこともあります。端子とはまったく関係のない、例えば工場内のある工程に自動設備を取り入れる…といったことも可能です。端子製造に始まって、プレスや射出成形、自動設備化まで幅広く対応できる技術がありますし、もちろん設計開発から承りますので、とりあえず何でもご相談ください(笑)。

――――端子以外に、太陽光発電関連の事業も大きな割合を占めているそうですね。

20年ほど前から、太陽光発電装置に使う「ジャンクションボックス」や「接続箱」という機器を製造するようになりました。

ジャンクションボックスは、太陽光パネルからインバータに電力を送るための電線を保護する機器。接続箱は、たくさんの太陽光パネルから集めたエネルギーを、一つにまとめてパワーコンディショナーにつなげるものです。

売上の面で見れば、現在はこちらの事業の方が端子製造を上回っていますね。組立やものづくりの一部など、太陽光関連の製造・工程はおもに海外の拠点(中国・ラオス)で行っています。ちなみに端子の製造は、ほとんどが日本国内の工場が担当。それぞれの工程の効率やコスト面を考えて、そういう分担になっています。

この太陽光発電に関わってきたことから、フィルターを手掛けている企業とご縁ができまして、お互いの技術を合わせて何か作れないか…ということになりました。

いろいろ検討した結果、まだ手探りではあるものの「ソーラー浄水システム」の試作品が完成。これは、災害時に川などの水をポンプで汲み上げ、フィルターを通して飲料用に浄水できるシステムです。ポンプや浄水の電源として、太陽光を使用。非常用の電源も確保できます。個人宅用というよりは、自治体や自治会などに備えていただくシステムですね。

この試作品は、11月に東京ビッグサイトで開催された「新価値創造展2017」に出展しました。

いつ何どきでも「リ スタート」できる。

――――そういった新しい試みへのチャレンジは、やはり50周年が大きなきっかけになっているのでしょうか。

家電分野が海外メーカーに押されてきたという時代背景もありますが、やはり50周年を迎えて、「次の50年に向け、従来の概念にとらわれず新たな気持ちで物事を進めていこう」という気持ちになりました。社会情勢やニーズの変化のスピードも、昔より格段に速くなっていますからね。

「大阪ものづくり優良企業賞2017」に応募したのも、お客様から仕事をいただくだけではなく、私達のように作り手の側から何か発信していく必要があるのではないかと思ったからです。おかげさまで優良企業賞と、いくつか特許製品があるということで知的財産部門賞をいただきました。これまで続けてきたことを評価していただいたことで、また新しいアイデアやものづくりに対する意欲が出てくれば…と思っています。

――――2014年に掲げられたスローガン「リ スタート」には、次の50年に向けての宣誓的な想いが込められているのですね。

じつは50周年までは毎年新たなスローガンを打ち出していました。50周年の翌年に“生まれ変わる”という意味を込めて掲げたのが「リ スタート」なんです。でも、常に柔軟な発想をしていくという意味では、いつ何どきでもリスタートすることができる。今は特に、あっという間にニーズが古くなってしまう時代ですし。常にリスタートする気持ちで、いろいろな分野に目を向けなければいけない。そういう想いから、2014年以降はこのスローガンを引き続き掲げていくことにしました。

「新価値創造展」への出展や「大阪ものづくり優良企業」への応募も、リスタートの一環です。社内でも職種の垣根を超えたアイデア会議などを定期的にしているのですが、やはり社内だけで考えていると行き詰まってしまう。いろいろなところに出展したり出かけたりすることで、多くの人や企業とのつながりができれば、そこから新しい着眼点や発想をいただけると思うんです。その一方、50年以上ものづくりに取り組んできた実績から、つながることで私達が何かのお役に立てるのではないかという自負もあります。

いつ何どきでも「リ スタート」できる。

――――日本のものづくりの場が、厳しい状況を迎えていることに対してはどう思われますか。

デフレ社会になると、安いものが選ばれる傾向にあります。それでもやはり、安かろう悪かろうではいけないと思うんですよ。私達は“日本の製品”という誇りを持ってものづくりに取り組んでいます。お客様に対しては正直で誠実でありたい。ちょっと泥臭い例えかもしれませんが「ウサギとカメ」で言うと“カメ”。着実に堅実に物事をこなしていくタイプですね。

例えば太陽光発電関連の機器などは、屋外で使われるものが多いので、どうしても厳しい使用環境にさらされます。特に日本は四季がはっきりしていて、夏と冬では気温や湿度の違いも大きい。そういう中で10年、20年と使うものだからこそ、ある程度の耐久性や性能を確保しなくてはなりません。もちろん市場の要求に応えてコストを下げたいという想いはあるのですが、品質を担保できるギリギリのラインは超えたくない。品質とコストのバランスをどう取っていくかが難しいところです。

――――今後、目を向けていきたい分野があれば教えてください。

前々から、「防災」の分野で何かできることはないかと社内議題には上がっていました。例えばブレーカーですね。私達の技術を生かして「地震の時に確実にブレーカーが落ちる仕組みができないだろうか」といったディスカッションもしています。そうこうしているうちに、違うところから水についての情報が入ってきたので「ソーラー浄水システム」を試作することになったのですが…。今後も災害関連の対応策、例えば直流と交流を変換せず、直流のままロス無く電気が流れる仕組みなども考えていきたいですね。

他に、これから広がっていくマーケットとしては、医療や自動車の分野に注目しています。AI、カメラ、センサーの開発がどんどん進んでいますし、高齢化社会という意味でも新たな技術が必要とされるのではないでしょうか。医療分野に関しては、医療機器関連企業の社長や設計開発者が集まるセミナーなどに顔を出して、木谷電器としてできることはないか勉強をさせていただいています。あくまでもまだ可能性を探っている状態なので、具体的なアイデアやご提案は形になっていないのですが、私が動くことで何か情報が入ってきたり、次につながる出会いがあったりするかもしれません。社長としての今の私の役割は、広い視野で次代の柱になるものを探し、見つけることですね。

ただ、会社を一足飛びに拡大させる…ということではありません。先の見通しが不透明な時代ですから、ものづくりそのものが日本でどうなっていくのか分かりませんが、一年一年着実に足元を固めることが重要。その上で、いろいろな方向にアンテナを張り巡らせていきたいと考えています。

中小企業が培ってきた「確かな技術」は、日本が誇る文化の一つと言えます。しかし、社会情勢や人々のニーズによって市場が変化すると、その技術を生かしきれない状況が生まれてくることは否めません。そんな中、木谷社長の「いろいろな分野に視野を広げる」姿勢は、技術の柔軟な応用や新しい技術開発への“希望の道筋”になるのではないでしょうか。堅実に伝統を守りつつ、変革を恐れない。穏やかな人柄の中に、そんな強い想いが息づいていることを感じました。

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