情熱ものづくりインタビュー
株式会社アスク

創業者の父から、思いを受け継ぎ次代を築く若き経営者の挑戦!

精密部品加工の必達試作人 株式会社アスク 代表取締役会長 長倉貞雄

第7回目のインタビューのお相手は、『株式会社アスク』の代表取締役社長・長倉健太郎さん。健太郎さんは2017年4月1日、父親である前社長の長倉貞雄さんから、社長職を引き継ぎました。同時に貞雄さんは、代表取締役会長に就任されています。

枚方市を一望する丘陵地・津田サイエンスヒルズの一角にある『アスク』。中心となる事業内容は、試作部品の製造。医療機器や家電、ロボットなど様々な製品の部品を試作しています。まずは健太郎さんに、社長としての抱負を伺ってみました。

突拍子もないことへの挑戦

代表取締役社長 長倉 健太郎

――――先代の姿勢から継承したいと思うこと、あるいは、自分はこうしていきたいという展望はありますか?

社長:
まずは、直感的に「やりたい」と思ったら、すぐ動ける人間になることですね。父である会長は、突拍子もないことを言うんです。周囲に「そんなん無理!」「やめた方がええって」と言われるような。それがいつの間にかみんなを味方に引き込むというか、ワクワクさせてしまうというか。「もしかしたら、ワンチャンスあるんちゃうか」と思わせてしまう。そういう姿勢は見習っていきたいですね。

なかなか難しいと思うのですが、でも最初から「できひんのちゃうか」と思うより、1回やってみれば「あかんかった」あるいは「良かった」という結論が出るでしょう?そっちの人生の方が、きっと面白い。社長就任は、そういうチャンスを与えてもらえたということですよね。とてもラッキーだと感じています。

全日本製造業コマ大戦 羽ゴマ

――――「突拍子もないこと」の中に、コマ大会への参加もあったんですね。2017年4月1日、貞雄さんが社長を退くまさにその日、最後の仕事として挑んだ「全日本製造業コマ大戦」で全国3位になりました!

社長:
はい。これは、直径250mmの土俵上で戦うケンカゴマの大会です。コマは、規定以内のサイズなら材質も形状も自由に作っていい。自社の技術力を試す絶好の機会でしょうね。

最初はこのサイエンスヒルズでのコマ大会に、私が出場したんです。3~4年前だったかな。ただし、お付き合い程度の気持ちでの参加でした。それで技専校(府立北大阪高等職業技術専門学校)の学生にコテンパンに負けまして。翌年は父が出場することになりました。

でも決勝で、またもや学生に負けてしまった。これで“部品加工屋のおやじ”の魂に火がついてしまったんでしょう。次の年は本気でいろいろなコマを開発し、4チーム出場。サイエンスヒルズの中で1~3位を『アスク』が独占しました(笑)。それで満を持して、全国を目指すことに。2016年の11月、「全日本製造業コマ大戦」の近畿ブロック予選で3位になりまして、今年4月に横浜で開催された全国大会に出場。全国大会には、父と設計チーム、投げ手として弟の純平が参加しました。

全国大会 第3位のメダル

――――全国大会では、『エース企画』というチーム名で出場。初出場で3位の成績は快挙でしたね。

社長:
じつは1回戦で高校生に負けているんですよ。でも敗者復活戦で這い上がったんです。正直なところ、大阪人の気質と言いますか、社内では「コマなんて金にならんのに…」という空気もありました。でも、会社で仕事をしていた留守部隊の私たちのもとに、逐一報告が届くんですね。1回戦負けから敗者復活で「勝った」「また勝った!」「本選復活や」と。そうやって勝ち進んでいくうちに、みんな手に汗握りながら「おお!すごい!」と盛り上がっていきました。

コマ大戦を機に変わったこと

難削材へ挑戦されている

――――会長は、これを最後の仕事として、息子さん達にものづくりの姿勢や想い挑戦することの面白さなどを伝えたかったのでしょうね。

社長:
そうですね。昭和の高度成長期からずっとものづくりに携わっていて、油まみれになってきた人から見ると、コマ作りは決着も含めて非常に分かりやすい。ITもAIも要らず、アイデアと工夫次第で、企業規模も関係ないですからね。設計チームも70歳を超えるシニアだし、コマ大会で有終の美を飾ると言っていました。「日本一になってすっぱりやめる」って。ところが会長になった今も、会社に来ていまして「次こそ、コマ大戦で全国優勝を目指す」と言っています。あれ?勇退するんじゃ…?という感じですよね(笑)。

でも、やはりものづくりにかける想いというか、負けん気の強さというのは、さすがだなと思うんです。特に、父は会社を起ち上げてゼロから1にした創業者ですから。一代でここまでの設備や工場を得るのは、とても苦労しましたし、もちろん周りのスタッフにもたくさん助けられたと思いますが、攻めも守りも一人で考えなくてはいけないという大変さは、今になってやっと実感できます。入社した当時は父から言われたことに対して「何をワケの分からんこと言うとんねん」なんて思っていましたが、社長という立場になってみて「ああ、そういうことか」と分かるようになりました。

――――このコマ大戦の参加によって、何か本業に活かされたことはありますか?

社長:
あったんですよ!直接的な受注ではないのですが、今まで敬遠していた「難削材」へのトライアルができました。
『アスク』では、硬くて加工が難しいタングステンやチタン、インコネルなどの「難削材」のオーダーは、断っていたんです。でも、コマ大戦にはタングステンを使った羽ゴマを作ることになりまして。それ以前にもメーカーさんの協力で、チタン加工に挑戦したことがあったのですが、現場では最初「難しい」と尻込みしていたものの、結果的に「ステンレスと変わらんくらい、簡単に加工できますね」という感想を得られました。

だからコマ大戦への参加以降は、難削材の依頼を断らないようになっています。未だにトライできていない素材もありますが、以前に比べると社内が「できひん」と決めつけない雰囲気になってきているので、時間が空いている時期にトライしていけそうです。

兄弟それぞれが得意分野で活躍

超小型軽量 電線剥離機 『電線マン』

――――これからは、健太郎さんが社長として、会長の功績を受け継いでいくと。

社長:
本音を言えば、まだ就任したばかりで、船で言えば、私に船長を任せてもらってから動き出した船が港を出たかどうかも分かっていません。とりあえずは今までやってきたことに、一生懸命取り組んでいるという状態です。ただ、父のようにすべてを一人でというのは到底無理だろうなと思っています。そういう意味で一番感謝しているのは、7人も兄弟をつくってくれたことかな(笑)。

――――7人のうち、4人が『アスク』で一緒に働いているとお聞きしました。

社長:
7人のうち男兄弟4人が全員社員です。父はもともと技術者でもありましたが、長男の私はお恥ずかしながらものづくりがまったくできません。部品加工の営業や展示会を通して、会社の魅力を広くお伝えすることが一番の仕事だと思っています。

一方、次男が技術者で、20年近く部品加工の現場で頑張っています。三男は営業の窓口。『アスク』は短時間見積もり・短納期をアピールしている会社なので、お客様からの電話やメールにすぐ対応するために、内勤してもらっています。そして、コマ大戦の全国大会で投げ手を担当した四男が、部品加工以外の営業ですね。「電線マン」という電線を剥離する自社製品や、電線リサイクルの営業をしています。それから、妹の夫も『アスク』にいます。うちは障がい者福祉の事業もしていて、そちらに携わっているんです。

父が創業時から一人で背負ってきたことを、兄弟それぞれが分業しているという感じでしょうか。でも兄弟というよりは、年の離れた先輩・後輩のような感覚がありますね。みんな本当にようやってくれていると感謝しています。

従業員が働きやすい環境を整備

銅線を粒状にしてリサイクル

――――会社や社員を率いていくための、心構えや指針のようなものはありますか?

社長:
これからしっかりと探していかなくては…と思っています。ただ、現時点では「従業員にとって働きがいと魅力のある会社」を目指しています。特に今の時代、なかなか新しいスタッフも見つかりにくいので。

――――「働きやすい」というと環境整備や仕事のスタイル、給与の面などでしょうか。

社長:
例えば『アスク』では、売上・利益・分配率などを毎月オープンにしているんですよ。スタッフが取り分の平均額を把握できる。それをモチベーションにしてもらっています。会社としても、賞与を含めて、中小企業平均以上の金額を出そうと頑張っています。

工場も、昔は“3K”なんて言われていましたが、うちに見学に来られるお客様からは「全然油臭くないね」「空調がきいていて働きやすそう」「キレイな会社やな」と言っていただくことが多いです。

電線マンをつかった剥離の様子

社員食堂や体育館なども設けていますし…。こういった働く環境を、もっとよくしていきたいんです。「ここで働いていて良かった」と思ってもらえるように。ただ、従業員満足度向上には、やはり顧客満足を考える必要があります。『アスク』は完全受注生産の会社なので、まず、お客様に指名されてなんぼ。そうなると、楽しい仕事ばかりではありません。つらいこともあると思います。だからこそ「この会社が好きやから頑張れる」「この仕事の先に、笑顔が待っている」と思ってもらえるような会社にしていくべきだと思っています。

ちなみに2年に1度、慰安旅行に行くのですが、その旅行代金を会社の利益から出すとみんなの取り分が減ってしまうので、加工で排出される金属の切屑などを材質別に分別して売却しています。鉄・アルミ・ステンレス・銅などを、現場のスタッフに分けてもらってね。その収入を旅行代金に充てるんです。以前は、面倒な作業のためか協力してもらうのが難しかったんですけど、「ゴミをお金に変えて、慰安旅行にいこか」と言ったら、みんな積極的になりましたよ(笑)。はっきりした目的やモチベーションがあると、やはりやりがいが出るのかもしれませんね。会社としてもメリットがありました。それまでは産業廃棄物として処理費用をかけていましたから。

――――働く人がイキイキと輝く会社は、お客様にとっても魅力的に映るでしょうね。

社長:
どちらかというと、『アスク』はモノづくりのネット通販的なイメージで見られがちなんです。短時間見積もりで短納期だから、電話で話したことしかないお客様も多くて。でもここ2年ほどは、展示会などでどんどん外に向かってアピールしています。新しいお客様にも訪問して『アスク』の強みや魅力を知っていただけるよう、営業にも力を入れて頑張っていくつもりです。

インタビュー後、工場を見学させてもらいました。80台もの機械が配置されているという工場内は整然としていて、通路も歩きやすい幅を確保。スタッフの皆さんが通りすがりに「こんにちは」と笑顔で挨拶してくださって、働きやすい環境であることが伺えます。工場の奥の部屋では、障がい者の方たちが「電線マン」を使って様々な種類の電線を剥離する作業をおこなっていました。廃電線を機械に通すだけで、きれいに皮が剥けていきます。自社製品を社内で活用することで営業的な強みが生まれ、障がい者の方々の就労につながり、さらに電線のリサイクルで利益も上がるという、一石三鳥の仕組みに驚きます。

次こそ、コマ大戦「日本一」に!

最後に、会長の長倉貞雄さんにもインタビューさせていただきました。

代表取締役社長 長倉 貞雄

――――全日本製造業コマ大戦に、今後も参加されるとお聞きしました。

会長:
来年の全国大会では絶対に日本一を取りますよ!だってね、うちが日本一になったら枚方市の宣伝になるでしょ。今年の全国大会はテレビ局の取材もあったしね。それだけでもPR効果は絶大。“枚方といえば、『アスク』の羽ゴマ。羽ゴマの『アスク』”と言われるように。この間の大会で負けて、いろいろ研究したんですよ。相手が土俵のどこで回っていても逃さない、全部弾き飛ばすような羽ゴマを作ります。みんな最初はバカにしとったんですけどね。バカにされることは強い。バカに勝てるやつはおれへんから(笑)。

――――社長の健太郎さんに託したい想いはありますか。

会長:
僕、去年1年間でね「引退する前に借金みんな返したろ」と思って、かなり儲けたの。金儲けはうまいし、いろいろ面白いことも考えているんですよ。でも真似してほしいわけじゃないから。息子たちに託すことは特にないなぁ。「自分達の好きにやれ」って言ってます。

障がい者の方々の作業場の様子

――――ちなみに、面白いこととは…。

会長:
コマ大戦もそうやけど、障がい者のこととかね。僕が障がい者福祉を始めたきっかけは、電車通勤中に障がいを持っている子と知り合ったこと。賃金は安いし、通うのが大変な子もおるし。そういう事情を知って、なおかつ、余命宣告された父親が障がいを持った娘を殺してしまう映画を観たこともあり「これはいかん」と思ったんです。それで障がい者の寄宿舎をつくり、十分な工賃を払える就労支援もするようになりました。『アスク』は本業で利益があがっているわけだから、障がい者を食い物にしない。やってもやらなくても同じような建前の仕事を与えることもしない。ちゃんと働いてお金を稼いでもらう。

うちの「電線マン」を使った作業は、見た目もいいでしょ。機械を使ってビーっと皮が剥がれていくの。そう、その「電線マン」も本当は世界的に売り出したいんだけどね。働かないといけない貧しい国の子ども達だって、電気が通っているところなら「電線マン」さえあれば食べていけるし…。

ユニークなアイデアや着眼点で、会社と事業を拡大してきた会長。その意志や行動を間近で見てきて、新たな次代を築いていこうとする社長。タイプは異なっていますが、「人への思いやり」が共通していることを感じました。お客様はもちろん、会社の従業員、障がいを持つ人、家族といった周囲の人々への温かな想いが、ものづくりや会社経営への原動力となっているのでしょう。コマ大戦も含め、今後ますます、様々な場面で『アスク』の名前が広まっていくことに期待がかかります。

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