注目の技術・製品
株式会社坂本設計技術開発研究所

「まだ何かあるはずだ」柔軟な発想力で物づくりを活性化!坂本設計技術開発研究所

枚方市東部に位置しさまざまな研究・商品開発機能を備えた企業が集まる津田サイエンスヒルズ。ここには新市場を開拓すべく業界の垣根を越えて新商品を開発する企業がたくさんあります。

今回は「カテーテル検査用固定具」で平成28年度近畿地方発明表彰・近畿経済産業局長賞に表彰された株式会社坂本設計技術開発研究所をクローズアップします。

カテーテル検査用固定具『スパイラルシーネ』

カテーテル検査用肘関節固定具「スパイラルシーネ」

カテーテルは医療用に用いられる中空の柔らかい管のことです。画像診断の際に使用される造影剤の注入や点滴などに用いられます。カテーテルの挿入部位は、主に手首、肘、大腿部の付け根にあるそけい部です。なかでもそけい部の場合は、止血に長時間かかり、その間ベッドが必要で患者は動けない不自由さを強いられます。

そこで、手首や肘からのカテーテル挿入が有効となります。肘は手首に比べて動脈が太く、閉塞などのリスクも低くなります。しかし、止血時に肘関節を曲げることで出血や血腫といった止血トラブルを招くリスクがあり、課題でした。

こういった背景から考案されたのが、カテーテル検査用固定具『スパイラルシーネ』です。肘関節を確実に固定し、挿入時と止血時それぞれに適した角度調節ができます。

地方発明表彰 賞状

腕の動脈は内側にあるため、針を刺す時には腕を外側にねじる必要があります。

『スパイラルシーネ』を使えば、腕をまっすぐに伸ばして先端のグリップを握るだけで、自然に外側へ30度の緩やかなひねりが加わり、肘関節を最適な角度で固定できます。

さらに止血時には肘関節の固定を維持しながら、腕を自然な角度に保つことができます。

医療現場の声から生まれた医療用補助具

カテーテル検査用手首固定具「ラディアルシーネ」

開発にあたっては、連携する医療機関の協力を得て、収集した多大なサンプルデータから、サイズ・形状を算出しました。

また、「握りの部分をどうするのか?」「どう接着するのか?」といった金型製造上の問題も出てきました。試作品を何台も作り、市内の医療機関で繰り返し検証した結果、ある方向性が得られました。

  • 感染症予防の為、使い捨てが可能であること
  • 肌に触れても冷たくない素材
  • 装着したままで患者が移動するには、気にならない軽さが重要
  • 血液やイソジンが付着しても一目でわかること

手術用手首固定具「フィンガーフック」

坂本設計技術開発研究所はこの4つの要素をクリアするため、素材に高密度発泡スチロールを採用することにします。高密度発泡スチロールは、強度・軽さともに最適でした。人肌に触れても冷たさを感じず、30グラムという超軽量化を実現できたのです。さらに、発泡スチロールはリサイクルが利くため使い捨てには最適で、金型で成形した製品の表面はさらりとして汚れが簡単に拭き取れます。

また、カテーテル用固定具の第二弾として、手首固定具である『ラディアルシーネ』も開発しました。『スパイラルシーネ』『ラディアルシーネ』は、現在枚方市内の医療機関で導入が始まっています。将来は、透析患者や骨折患者、ICUでの使用も視野に入れ、今後、全国の課題を抱える医療現場への導入を提案していく予定だといいます。

カテーテル検査用固定具以外にも、同社は医療現場において数々の発明をし、患者の負担軽減に貢献しています。

例えば女性に多い腱鞘炎の一種「バネ指」。これまで手術の際は、看護師2人が手のひらを押さえて手術をしていたそうです。これを見て、同社は手指を固定する器具『フィンガーフック』を開発。これにより、医師が1人で手術をすることを可能にしたのです。

また、乳がんで乳房を失った患者が乳房を再建する際、これまでは医師が目視で左右の大きさを合わせるため、針で何度も脂肪を注入するという現状でした。これを、CTやMRIで手術前の形状をスキャン。容積を計算し、同社で開発した真空成形機で乳房テンプレートの製造に成功します。これにより患者の負担は激減するといいます。

変わりゆくものづくりの現場

株式会社坂本設計技術開発研究所     代表取締役社長 坂本 喜晴さん

「発泡スチロールを医療現場に持ち込んだのは前代未聞。アイデア次第でどんどん製品が生まれていきます」

金型設計のプロセスで培った3D設計技術・モデリング・3D加工技術を従来の枠にとらわれることなく柔軟に活用したこと。それがこれまでの自動車や弱電のプレス金型設計だけでなく、新たに医療分野へ進出するポイントとなったのでした。

「今まで日本がやってきた職人たちによるものづくりは、今の時代では少し合わなくなってきている」と坂本社長は言います。

今から30年~40年前の日本はいわゆる「目で盗め」という時代。職人たちは10代から現場に入って20年30年とベテランになるにつれ、培った技術を後人に引き継ぐ。「俺の背中を見て覚えろ」という世界です。ベテランが身につけた技術・経験を新人は同じ時間かけて受け継いでいたのです。

人工照明に頼らない快適なオフィス

ところが今は入社して3ヶ月程度の社員がCAD/CAMで、プロに近い仕事ができる時代になったのです。

また坂本社長はこう付け加えました。

「30~40年前に最先端だった技術は、今は基本中の基本でしかありえないんですよ。人件費が安い海外にシフトされて当然なわけです。だから、大企業からその仕事は海外に出したよ、って言われると下請けはもう仕事はないわけなんです。我々は海外企業と同じ土俵で戦うより、自分たちにしかできないものを生み出すことに挑戦することが重要なんです」

S.S.Tグループについて

SST-G組織図

坂本設計技術開発研究所は、S.S.Tグループという、緩やか且つ強固なネットワークを形成しています。開発、設計、製造・生産、試作、加工、サービスといった様々なジャンルに、大学・銀行・商工会議所といった支援機関からなる約30数社・機関のグループです。

S.S.Tグループとは“Success,Solution,Technologists,GROUP”(成功への課題解決をする技術者集団)の略。

それぞれが各ジャンルにおいて経験豊かな専門家です。これまで、異業種だということからチャンスがあっても手を出せなかった案件にも、積極的に参画することが可能となりました。

SST-G定例会風景

「S.S.Tグループは課題解決をする技術者集団です。私が思うに、これまで日本の中小零細企業は隣人と仲良くできなかったと思うのです。隣の会社にどんな設備があって、どんな仕事を請け負えるかなんて、分からなかったんです。でも、S.S.Tグループは一芸に秀でた企業家たちが集結し、自分一人では弱小でも、グループ一丸となれば大企業にできないことができる。ワンストップで物を作ることができるため、価格・スピード・質の面で大企業と充分に戦える。そういう技術者集団です」

今まではどこにいえばいいのか分からない案件でも、S.S.Tグループ発足後は受注すれば必ず開発・納品できるという自身があると坂本社長は言います。

坂本設計技術開発研究所が考える今後の「ものづくり」

KUKA製ミーリングロボット

坂本設計技術開発研究所は他にもいろんなジャンルに進出しています。

枚方市と、交野市の産業PRキャラクターである「ひこぼしくん」「おりひめちゃん」の立体造形、グッズの製作・販売や、地域の大学と連携しての自立走行ロボットやソーラーカー等の研究開発等、地域や産学連携の取り組みにも力を入れています。昨年末には、6軸ロボット切削システムを導入し、パリコレクションに出展されるドレスの切削加工にも成功しました。彫刻や空間デザインなど、新たなジャンルへの可能性も広がります。

坂本社長は最後にこう話しました。

「昔の日本の金型製造現場は、何年も経験を積んだ職人たちが、手描きの図面でハンドル操作の機械を使って、金型を製作していました。時間とコストにおいて今とは比べ物にならないほど頑ななビジネスであったように思われます。しかし今はパソコン上で3D設計・モデリング・3D加工などがスピーディに行われます。工期、コスト面において大幅な短縮が可能となった反面、ものづくりにおいて創意工夫、地道な努力、探究心や好奇心、分析能力、アイデア、研究開発力といった総合的な能力が必要となっています。

2017AWパリコレクションに出展されたロボットアーム切削ドレス

従業員一人ひとりが『まだなにかあるはずだ』『まだ何か役に立てることがあるはずだ』と常にアンテナを立てていれば、我々は成長し続けることができると思います。我々の仕事はあまり表舞台にでることはありませんが、柔軟な発想とアイデア、そして強固なネットワークで、社会や産業界から必要とされ信頼される、感性豊かな想像力溢れる『燃える集団』を目指します」

お問い合わせ先

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〒573-1132 大阪府枚方市津田山手2丁目20-1 (津田サイエンスヒルズ内)
電話 : 072-897-5311(本社)

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