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太一工業株式会社

「一畳オフィス」で提案するこれからのIoT社会での働き方 太一工業株式会社

来るべきIoT社会に向けて自然科学・建築学の観点から提案する 知的生産性の向上を図る ミニマムオフィススペース 「一畳オフィス」 大一工業株式会社

枚方東部・春日野を中心に自然発生的に集まった40社・約1,400人が働く町、枚方東部企業団地。そこには多種多様な業種がさまざまな製品を生産しています。今回は2017年2月に「一畳オフィス」を発売された太一工業株式会社をクローズアップいたします。

「一畳オフィス」とは?

太一工業のメインは医療用・食品用・酒類用樹脂キャップの製造

必要なものは自分の身の回りに置くという人間の習慣を利用して、フロアの中に畳一枚分の空間を作り、その中でほとんどの作業を可能とするオフィススペースです。「コ」の字形のレイアウトで構成。天井は室内の照明を利用するためスリット状に。必要に応じてスクリーンカーテンで視界を区切ることも容易で、パネルで区切れば遮音も可能なパーソナルオフィス空間です。

太一工業株式会社は昭和31年に東淀川区で創業しました。材木関連の会社から独立した初代社長が、材木と関係のある仕事ということで原料に木の粉を用いるコルクの製造を始めました。輸入コルク材の高騰や消費者ニーズの変遷により樹脂製品に移行し、現在は日本酒といった酒類の蓋や王冠用ポリキャップ、食品や薬品のキャップや小型容器などを製造しています。

樹脂キャップ製造会社がなぜ「一畳オフィス」を製造することになったのか。
太一工業株式会社で技術主任を担当されている毛利公勅さんに聞きました。

樹脂キャップ製造会社がなぜ「一畳オフィス」を?

技術主任兼業務主任 毛利 公勅 さん

「それは私自身の経歴と大いに関係があります」

毛利さんは以前オフィス家具メーカーで研究員のお仕事をされていました。「オフィス家具を作る」という大枠の中で、そもそも人が仕事をするのに大事なものは何か。仕事の能率を上げるにはどうすればいいのか。ずっと研究していたそうです。

「神戸大学の大学院に社会人をしながら2年間国内留学をしていました。当時、安藤先生という方がいらしたのですが、その方の元で研究をさせていただきました。ゼミでは1981年に最高裁判決が出た大阪空港の騒音問題を研究するなど、主に音環境が人間に与える要素といったものを勉強していました」

神戸大学・大学院の自然科学研究科で建築音響を学んだ毛利さんは騒音が人間の脳にどのような影響を及ぼすのかをライフワークとして追及していくことになります。

「人間の脳って左右があって、それぞれ右脳・左脳と言うんですけど、その二つは違う作業を分担しているんですよ。右脳は図形や地図を見るなど、そして左脳は計算とか言語などと言われています。

『計算する』『図形を認識する』という単純な作業に音を流したら脳にはどのような影響が出るのか。
安藤教授の論文に、被験者に対してそれぞれのタスクに音楽と航空機騒音を流すという実験があります。そしたら、右脳の作業をする時には音楽は特に影響はなかったんですが、航空機騒音は如実に作業低下が起きました。左脳の作業時には逆に航空機騒音は特に影響が出ず、音楽の方が作業能率を低下させたんですよ」


脳の情報処理に対する環境音の干渉モデル

もちろんそれはすべての人間に当てはまるわけではなく、個人差もあるそうです。左脳を使うと言われる計算に関しても、珠算1級2級ほどになると頭の中でそろばんをイメージし、右脳で計算結果を導き出すと言います。

毛利さんはこういった研究をしていく中で、各人が作業内容によって環境を自分で選べるようにならないか、という考えに至りました。
当時、オフィス家具メーカーに勤務していた毛利さんはストレスフリーなオフィス環境を実現する家具を開発することになります。

広いフロアの中で自分だけのオフィス環境を実現するには、個室空間が必要となります。そして業務のほとんどをそのスペースの中で補えるようにしよう。そして「コ」の字形天板を導入することで作業に応じて天板の使い分けを促そうとしたわけです。

理想のオフィスを商品化するために

「最初のプロトタイプは音環境の静粛性にこだわったこともあり、かなり大きく、また独立した簡易な空調機を備えていました。デザインも海外デザイナーに入ってもらったこともあり、結構な費用をかけることができました。おかげさまで2001年の展示会は好評でした」

しかし、プロトタイプは実験的に数台販売したけど、量産体制にはなりませんでした。時期尚早だったのかもしれません。組織の歯車として動く中で、オフィス家具メーカーの限界を感じた毛利さんはいったんこの製品化を断念することになります。

この形に辿りつくまで試行錯誤の連続だったといいます

「大学院で騒音のことを研究していくうちに、防音材に興味が出てきました。声をかけていただいたってこともあるんですが、オフィス家具メーカーを辞めまして、外資系の自動車部品メーカーで防音材の研究員になったんです。ただ、リーマンショックの影響からか、日本支社がなくなることとなりましてね。私自身が樹脂成形の資格を持っていたのもあって、太一工業株式会社に入社することとなりました。2010年のことです。
樹脂についてはある程度分かるつもりでしたし、自動車部品メーカーの研究員をしていた時も防音材に絡めてプラスチック部材には関わっていましたのでね」」

大学では化学を専攻していた毛利さん。オフィス家具メーカーでの採用も材料開発部署だったそうです。家具と言ってもここ近年はデザイン的自由度が高い樹脂を取り入れた製品が年々増えていることもあって、毛利さんは樹脂成形に関して深い知識と高い意識を持っていました。

太一工業で理想のオフィスを商品化しよう

太一工業株式会社では現場管理に加えて、クライアントからの開発依頼への対応などを担当している毛利さん。それらの業務に加えて、これまで太一工業株式会社とは無縁だった新ジャンルへの開拓も任されています。

「当社では日本酒のキャップなどがメインの商材となるのですが、ご承知の通り、世界での日本酒ブームがあるとは言え、全体的にみると日本酒関連の注文は右肩下がりとなっています。これから当社が生き延びるためには何をすればいいんだろう。社内でアイディアを出し合ったり、いろんな試作品を作ったりしました。ただどれも販路を開拓することが難しかったんですね」

これまでに培った樹脂成形技術を用いて、家庭菜園用のプランタを開発したり、その延長上でクレソンといったサラダに使えそうな野菜を栽培できるキット一式を開発したり。おおよそ二年ほどいろいろこねくりまわしたと毛利さんは言います。

「結局、今の生産ラインや取引業者への影響などを極力少なくするためには、自分たちが開発者となって生産は他社でやってもらうのがベターだろうってことになったのです。それなら太一工業とは縁もゆかりもないことをやってみようじゃないか、と。なら、自分が過去に商品化できなかった仕事にもう一度チャレンジしてみたいと思ったのです。幸い、大阪府下なら当社の自社便が使えます。設置も自分たちでできますし」

「一畳オフィス」いよいよ販売へ

天板には反りに強いMDFを採用

過去に製作したプロトタイプを既製品として売り出すためにいくつかこだわった点があったと毛利さんは言います。

「以前に展示会用に作ったプロトタイプはコンピュータースクールが購入されました。自社フロア内に防音機能を持った小さなスタジオを設置して、そこで自社の教材を作りたいとのことでね。なのでサイズもパーソナルスペースとしては比較的大きく、お値段も結構したんです。

ただ、今回売り出す『一畳オフィス』はスペースも機能もミニマムであることにこだわりました。なるべく価格を抑えて、あとはクライアントの要望に合わせていろいろカスタマイズしやすい作りにしています。

用途に合わせてさまざまなスクリーンカーテンが選択可能

過去のプロトタイプは『コ』の字形天板三方向すべてが大きかったのです。こうなると真ん中の天板にパソコンを置いて、残りの天板は物置のようになってしまいました。

そこで真ん中の天板を極力小さくしています。こうすることで、向かい合う二つの天板を作業に応じて使い分ける動機づけとしました。

またプロトタイプは大きくて一般家庭に置けませんでしたので、一畳のスペースにすべてまとめられるように見直しました。

お部屋の窓際で自然光を利用できるように、また照明の明かりを利用できるように、基本は高さ1.8メートルの四本柱をメインにスリット状の作りです。壁として使用するスクリーンの素材やパネル、天井天板など、さまざまな点でクライアントの意向を汲める仕様となっています。

素材に関して柱はコストと強度で定評がある米松を使用。天板素材にはMDFという合板を使用しています。MDFは加工性が良く強度もあり、長年使用していても反りにくいというメリットがあります。もちろんコスト面でもベストチョイスと言えるでしょう。また、MDFは廃材を利用していますのでエコだと言えます。

施工については二人の人員で一時間以内に納まります。重量についても大人一人分程度の重さなので、レイアウト変更も可能です」

「一畳オフィス」が狙うターゲット層は?

「今、定年退職したけど年金受給までに何年かタイムラグが生じるケースが増えてきています。年金を受給できるまでに何か新しい事業をしたいけど、事務所を立ち上げるまでは難しい。でも、家の中ではオンとオフの区切りをつけるのが難しい。そういう人たちに設置してほしいと思っています。また、自分だけの書斎がほしいという人にも『一畳オフィス』はいいと思います。あと、テレワークで働いている人たちですね。家の中でも業務に集中できる環境を作らないといけない場合、『一畳オフィス』はもってこいだと思います」

毛利さんご自身も、プライベートで論文やレポートを書く時は自宅ではなく、自宅近所のファミレスを利用すると言います。家の中ではものを考えるモードにならないそうです。

近年では会社に出勤不要なテレワークを導入している企業も増えています。企業としても通勤費手当が浮きますし、従業員も通勤に費やす時間を有効に利用できます。

インターネット回線と仕事ができる場所さえあれば、業務が成り立つそんな時代になってきているのかもしれません。

細かなところ一つ一つに深いこだわりが

「今は当社でしか『一畳オフィス』を作っていませんが、プライベートオフィスが今後もっと普及しだすと、他社でもこういうものを作り出すかもしれません。今後はこの商品を核として、様々なユーザーの要求に応えられるオプション展開に注力し差別化を図っていきたいです」

「一畳オフィス」の向こうに見えるもの

「太一工業がメインとする樹脂製キャップの製造とは別に、この『一畳オフィス』も会社を引っ張っていける商材に成長させたいですね。これまでの部品メーカーという側面とは別に開発メーカーという一面も育てていきたい。いつかこの両輪でやっていけたらと考えています。

私は長年音環境に携わってきたもので、やはり遮音・防音というものにはこだわりがあります。なので次の展開は以前プロトタイプで製作した『一畳スタジオ』です。『一畳オーディオルーム』でもいいかもしれません。広い空間での音響設計というものは割とたくさんあるんですけど、このような一畳という狭い空間での音響設計というものはあまり聞きません。

ちょっと話は大きくなりますが、この先、人間の役割ってどうなっていくのだろうってよく思うのです。今、IoTが騒がれているじゃないですか。究極かもしれませんが、仕事における人間の役割が大幅に変化すると思うのです。とある生命保険会社では普通の事務処理はAIにさせていると聞きます。工場プラントも故障予測までさせてメンテナンスからすべてコンピューターに任せられるようになっているところもあると聞きます。人間に確実に残されている仕事はもうクリエーションに特化してくるだろうと思います。

クリエーションができる環境。私は太一工業というバックボーンで、音環境づくりを極めたいと思います。それが人間が働きやすい「場」を提供することにつながる。そう信じています」

お問い合わせ先

太一工業株式会社

〒573-0131 大阪府枚方市春日野1丁目12-1 (枚方東部企業団地内)
電話 : 072-858-8435(代表)
【WEBサイト】太一工業株式会社

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